研究助成事業東日本大震災への取り組み 
提言(2011年7月1日)

「レジリエンスの高い」地域社会の構築に向けて

増田 幸宏

豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 建築・都市システム学系
東京理科大学 客員准教授 (危機管理・安全科学技術研究部門)
准教授 増田 幸宏
[助成採択年度] 2009年度
[助成種類] 研究助成

1976年生まれ
早稲田大学大学院修了
早稲田大学高等研究所准教授を経て現職
建築・都市環境工学, 設備工学/都市の高温化リスクや建物の危機管理のためのBuilding Continuity, Building Forensics領域の研究に取り組む/博士(工学)

今回の東日本大震災の厳しい経験から、多くの方がこれから真に安全で安心できる社会を築いていかなくてはと痛切に感じておられるのではないかと思います。この機会に、災害に強く、安全・安心な社会とは、どのようなことを意味するか、そのイメージをきちんと共有することは日本が再生するために必要なことであると感じております。

私は、本当の強さとは、困難な状況に負けないことであると考えています。これからの真に安全で安心できる社会の構築に必要なことは、困難な状況に負けない力、厳しく困難な時期を乗り切り、乗り越える力を備えることであると感じております。大きな災害や事故に見舞われた時に、私達の組織や地域社会は、いくら入念に防災対策を講じていたとしても、程度の差こそあれ影響や被害を受けることは避けられません。しかしながら、傷を負いながらも堪え忍び、厳しく困難な時期を何とか乗り切り、乗り越える力こそが、重要になるのではないかと考えています。それが、私達の考えるしなやかな強さを備えた社会であり、「レジリエンスの高い」組織や地域社会の姿です。

レジリエンスの高い社会構築のためには、日頃十分な備えをすることがまずは基本となります。対策を講じていれば問題が生じたとしてもその程度は軽くてすむことが期待されます。被害の程度が軽微であれば、その後の復旧・復興の過程は大きく変わってきます。事前に備えることの重要性はレジリエンスを高めるために、とても大事な要素であることに変わりはありません。そのことに加えて、レジリエンス向上のためには危機管理の実質的な仕組みと仕掛けを充実していくことが大切になると思います。例えば、意志決定やコミュニケーション、地域連携、情報管理、経営資源管理などがレジリエンス向上のための重要な指標となるのではないかと考えています。

このような観点から、組織や地域社会が、それぞれの防災対策や復旧対策のレベルを自ら把握し、その強みと弱みを理解することができれば、東北地方の復興だけでなく、今後懸念される首都直下地震や東海・東南海・南海地震に対する被害軽減と早期復旧に大きく資すると考えています。

今こそ技術者や研究者に求められる役割や社会の期待、社会との架け橋になるような情報発信の必要性などを痛感しております。組織や地域社会の一員の目線で、これからも役立つ実践的な情報を発信することを心掛けていきたいと考えております。またこのような取り組みを通じて、都市の安全性に関する丁寧で開かれたコミュニケーションの文化を根付かせることが、日本におけるこれからの安全・安心の社会構築に不可欠なことであると考えております。