研究助成事業東日本大震災への取り組み 
提言(2011年7月1日)

震災提言

横田 隆司

大阪大学 工学研究科 地球総合工学専攻 建築・都市デザイン学講座
教授 横田 隆司
[助成採択年度] 2008年度
[助成種類] 研究助成

1960年生まれ 50歳
大阪大学卒業、同大学院修了
建築計画学、地域施設計画/博士(工学)

日本建築学会歴: 近畿支部長(今年6月より)、代議員、近畿支部常議員、
論文集委員会委員、建築計画本委員会委員
著書: 『建築デザインと環境計画』(共著)
『建築・都市計画のための空間 計画学』(共著)
『阪神・淡路大震災における避難所の研究』(共著)
『地域施設の計画』(共著)
受賞: 1993年 日本建築学会奨励賞
2004年 日本建築学会賞(論文)

私は大林財団からは郊外住宅地に関する研究テーマで助成をいただき感謝しています。助成が終了しても研究は小さな足取りではあるものの継続していますが、そこで見えてきたのは、居住者自らが郊外住宅地の高齢化なり、買い物難民化なりを憂いている姿です。もちろん、"そんな衰退している郊外住宅地は見切りをつけて都心に人口を移動させるべきだ"という乱暴な議論があるのも知っています。しかし、経済性一辺倒ではなく、住んでいる人達に寄り添って今まで通りの生活をできるような施策を国なり地方自治体に求めるのはおかしいことなのでしょうか?

それは今回の大震災においても、早々と"高台に集約して移転"という人口移動策があたかも既成事実のようにマスコミに登場していることにもつながります。おそらく沿岸部での被災住民の皆さんの全員が全員そうとも思っていないでしょうに、高台への移転イメージまで示されています。何かおかしいのではないでしょうか? もちろん自治体にも言い分があるでしょう。しかし、住民の話を聞く前に高台移転案を作成して、それを押し付けようとする姿は、阪神・淡路大震災において神戸市が早々と都市計画決定した姿とだぶります。

いずれにせよ、研究者たるもの自分で調査研究をしないでの提言はありえないと思っています。今は真剣に思考すべきで、復旧はともかく復興どうこうと軽々しく口に出す時期ではないと思うのです。内藤廣先生の言「痛みを感じながら起きたことをまじまじと見ること、時々刻々変わっていく情況とそれに反応する人々の心の有り様を脳裏に刻み、けっして忘れないこと(GAJAPAN、No.110、2011.5)」に深く共感します。単なる思いつきでない本当に現地の被災者の方々のためになる調査研究を皆で進めようではありませんか。それが日本の他地域の再生にもつながるでしょうし、ひいては日本全体の発展に繋がると思います。