研究助成事業東日本大震災への取り組み 
提言(2011年7月1日)

「沿岸域総合管理」のため地方自治体固有の海の制定を

横内 憲久

日本大学 理工学部 建築学科
教授 横内 憲久
[助成採択年度] 2010年度
[助成種類] 研究助成

日本沿岸域学会(1988年設立)では、21世紀を迎える2000年12月に「沿岸域の持続的な利用と環境保全のための提言-2000年アピール-」(委員長・筆者)をまとめた。ここでの提言は、「沿岸域総合管理」の考え方とそれを担保する「沿岸域総合管理法」の制定である。海岸線を挟んだ陸側と海側(沿岸域という)を地方自治体(地方公共団体)が一体的・主体的に管理・運営(マネジメント)することが、海の利用を促進し、環境保全や防災の自律を促す、という趣旨である。

その後、2007年4月に海洋基本法が制定され、「沿岸域の総合的管理(第25条)」には触れているが、自治体の海に関する記述はみられない。今回の痛ましい大震災の被害は多く津波が引き起こしたといわれている。現在、海岸線より沖側の海は、ほとんどすべて国が管理している。宮城県の海も仙台市の海も無い。つまり、海には行政境界も無く自治体にとっては埒外の広大な空間である。自治体の海が規定されていたら、津波の被害が減少したかどうかは分からないが、観光や風光明媚の海の利用ばかりでなく、自分のまちの海のあり方を多様に考えたであろう。海を含むことによって、自治体の範囲が広域化することは厄介な面も多くなるが、海が自治体のマネジメントの視野内にあるということはきわめて重要なことである。

今回の被災状況で明らかになったように、津波の被害は陸域に一様ではない。波の遡上の仕方、地盤の状況、海底から高台までの地形変化等によって被害の程度は異なるが、それをよく知っている可能性が高いのは地元の人々である。

上述の2000年アピールは、今回のような大惨事を想定はしていなかったが、海と陸を個別に扱うのではなく、一体となった沿岸域として、地元のステークホルダーが扱うべきであるとした点は検討に値しよう。

復興にはかなりの年月がかかるといわれているが、今からでも地方自治体の海を制定する考えを始めるべきといえよう。