制作助成事業 2025年度 採択者
2025年度 採択者

ホー・ルイ・アン氏
現代美術、映画、パフォーマンス、理論の交錯点で活動するアーティスト兼ライター。レクチャーやエッセイ、映画などを通してグローバル時代のさまざまな統治システム下での労働、テクノロジー、資本の関係性を探求しています。これまでに、「上海ビエンナーレ」(2023)「バンコク・アート・ビエンナーレ」(2020)「光州ビエンナーレ」(2018)、「ジャカルタ・ビエンナーレ」(2017)、「シャルジャ・ビエンナーレ13」(2017)、「コチ・ムジリス・ビエンナーレ」(2014)や、ナショナル・ギャラリー・シンガポール(2022)、クンストハレ・ウィーン(2021)、山口情報芸術センター[YCAM](2018)、ハオス・デア・クルトゥーレン・デア・ヴェルト(ベルリン、2017)などでプロジェクトを発表している。
委員長コメント
2017年に大林財団が創設した《都市のヴィジョン−Obayashi Foundation Research Program》は、アーティストに都市のあり方を調査・研究・提案していただく機会を提供する助成です。これまでの採択者にはそれぞれ豊かな作家活動を積み重ねてきた実績のもと、本助成の趣旨について独自の解釈の上、「都市」に対する新たな視点を示していただきました。
第5回となる今回の推薦・選考では、パンデミック後ということもあり、日本のみならず世界各地を拠点にするアーティストが多数候補に挙がりました。世界各地で紛争や災害、格差問題が噴出している状況は、都市をテーマとした本助成の作家選考に少なからぬ影響を及ぼしたと思います。加えて、候補となったアーティストにはファッションやストリートカルチャー、SNS、パフォーマンスに軸を置き、狭義の美術の枠に収まらない制作・活動で知られる作家が含まれたことも、今回の推薦・選考の特徴のひとつでした。
慎重な議論を重ねた結果、このたびの助成対象者にはシンガポール出身のホー・ルイ・アン氏を選出しました。グローバル資本主義システムに対する批評的な視点にもとづいて歴史資料をはじめ現代の文化的資料を幅広く調査し、東アジアおよび東南アジアにおける資本主義経済の成り立ちと現代の様相 ——— 西洋の影響が根深く関わっていることは言うまでもありません ——— をレクチャー・パフォーマンスや映像の形式で発表する作品で知られています。「価格」を基軸に東アジアおよび東南アジア地域を展望し、歴史的な条件が現代の国家と市場メカニズムに与える影響を研究・考察するホーの視点は、「メタ市場」という都市を形づくる重要かつ見えない基盤を浮かび上がらせるものです。アーティストならではのナラティヴによって、今回の研究が都市と現代社会にどのような光を当ててくれるのか。これまでの採択者のなかでもっとも若い世代のアーティストからの新鮮な提言に期待を寄せています。
東京オペラシティ アートギャラリー
シニア・キュレーター
野村 しのぶ