研究助成事業東日本大震災への取り組み 
提言(2011年7月1日)

環境配慮時代における日本再生の道:道徳意識の向上

青木 俊明

東北工業大学 経営コミュニケーション学科
准教授 青木 俊明
[助成採択年度] 2010年度
[助成種類] 国際交流

1970年1月生 41歳

[学位] 博士(情報科学)
[1998年] 東北大学大学院 情報科学研究科 博士後期課程 満期退学
[1998年] 東北大学 経済学部 助手
[1999年] 建設省土木研究所 研究員
[2002年] 東北工業大学 土木工学科 講師
[2007年] 米国 Duke大学 客員研究員
[現在] 東北工業大学 経営コミュニケーション学科 准教授

東日本大震災と原子力発電所の事故により、わが国は甚大な人的被害と経済的被害を被った。しかし、関東大震災や戦後の高度経済成長を考えれば、このたびの震災復興も十分に可能だと思われる。しかし、現代の日本人には、当時と大きく異なる点がある。その一つが、"ソーシャル・キャピタルの高さ"である。

ソーシャル・キャピタルとは、個人間の相互信頼を基盤として、自集団に対して協力的な態度や行動が示される程度のことを指し、ソーシャル・キャピタルが高ければ、個人は自集団に協力的に振る舞う。経済発展に伴い、わが国では他者の協力を得ずとも比較的不自由のない暮らしが営めるようになってきた。すなわち、日常生活の中で利己的な振る舞いが許容されるようになった。そのため、相互協力に基づく文化的土壌も衰退してしまった。

相互協力がなければ、もとより困難な復興がより困難になり、震災後の停滞が定常化してしまう危険性もある。しかし、相互協力文化が復興すれば、効率的かつ効果的な地域復興や経済復興が期待できる。なにより、今後、さらなる災害も予想されているなかで、地域の防災力を高めることにもつながる。したがって、ソーシャル・キャピタルの向上は復興を成し遂げる上で、極めて重要な課題だと言える。

ところで、環境への配慮を必要とする現代では、ソーシャル・キャピタル向上は別の利点も持つ。それは、ソーシャル・キャピタルの向上により、リサイクルや節約などの環境配慮行動が促されることである。

ソーシャル・キャピタルの根幹は、"他者や自集団のために尽力したいと思う気持ち"であり、道徳意識に支えられている。そのため、国民の道徳意識を高めれば、ソーシャル・キャピタルが向上し、効率的な復興が促進されることに加え、過度の消費や経済成長の追求も抑えられる。その結果、環境配慮と経済成長がバランスした社会に移行することまでも期待できる。このような社会像こそ、日本再生の方向であり、国際社会のモデルとなりうる。そのために必要なことは、"道徳意識の向上を図る政策の実施"である。復興を契機とし、道徳意識の高揚を図ることにより、日本は再び国際社会の衆目を集める国として再生できると考える。