研究助成事業東日本大震災への取り組み 
提言(2011年7月1日)

震災提言

樋山 恭助

東京大学 生産技術研究所
助教 樋山 恭助
[助成採択年度] 2010年度
[助成種類] 国際交流

[学歴]

2008年10月 東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程 中途退学
2009年3月 東京大学工学系研究科 論文博士取得

[職歴]

2005年4月-2006年9月 株式会社日建設計
2007年4月-2008年9月 日本学術振興会 特別研究院(DC1)
2008年10月 東京大学生産技術研究所 助教

現在に至る

節電が必要である。短期的にはこの夏の大規模停電を回避するために、長期的には原子力推進のエネルギー政策見直し後も低炭素化社会への歩みを進めるために、節電が必要である。その方策の一つとして、空調エネルギーの削減を考えなくてはいけない。ただし、「昔はエアコン無しで仕事をしていたのだから」という曖昧な根拠の下で空調を停止してしまうのは余りにも無責任である。そもそも、今と昔では建築の形態が異なる。暑いときには通風をとれた低層中心のオフィスビルとは異なり、窓の開閉が制限される昨今の高層オフィスは、空調の停止により数時間で蒸し風呂となる。何故空調設備があるのかをよく考えた上で賢く空調エネルギーを削減する必要がある。

まず空調設備は人の健康を守る役割を持つ。冬に風邪を引かないように室内を暖めることはもちろん、ヒートアイランドにより高温化した都市部の生活者、特に高齢者を熱中症から守るために適度な冷房することの必要性が最近では強く認識されるようになった。また、空調により快適な空間を保つことが労働者の生産性や創造性に結びつくことも無視できない。空調の停止や空調設定温度を上昇させる場合、健康被害が及ばないようにすることはもとより、労働者の生産性が減退することによる労働時間の延長で逆に増エネにならないよう、十分な思慮が必要である。空調の消費エネルギーの低減においては、まず冷房の負荷となる熱の発生を抑制することが第一義となる。日射を防ぐ、不要な照明やOA機器を消す。このように熱の発生を抑制した次に、空調の設定温度等、運用面を考えるべきである。

しかし、窓の開かないオフィスを作って冷房を効かせることを推奨するわけではない。環境的な建築を設計するには、まずは熱負荷を抑え、次に自然エネルギーを利用し、最後に化石燃料に頼るべきである。今こそ、エアコンありきで行われてきた現代の建築設計を見直す転機とすべきである。