研究助成事業東日本大震災への取り組み 
提言(2011年7月1日)

日本が再生するために必要なものは何か

松山 洋

首都大学東京 都市環境科学研究科 地理環境学域
准教授 松山 洋
[助成採択年度] 2009年度
[助成種類] 国際交流
[ホームページURL] http://www.comp.tmu.ac.jp/lagis/

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、大津波、福島第一原発の事故という未曾有の大災害を引き起こした。この原発事故に伴って放出された放射性物質に関連して、現在ほど安全な水の重要性が叫ばれている時はないと思う。一時期、東京でもスーパーマーケットなどでペットボトルの水が売り切れ、自動販売機でもミネラルウォーターだけが売り切れている状態が続いた。それでも、最近はだいぶ落ち着いてきたように思う。

筆者は、平成21年度の大林財団 国際交流助成で「大都市の水資源に関する比較水文学的研究~東京とウルムチを事例に~」という研究を行なった。いま、その東京の水が危ない。水循環という観点から言えば、いま必要なのは放射性同位体の長期モニタリングである。原発事故で放出された放射性物質のうち、ヨウ素131の半減期は約8日だが、セシウム137の半減期は約30年と長い。人間の健康との関係(引いては放射性物質が引き起こす因果関係)を議論するうえでも、セシウム137のモニタリングは欠かせない。実際、2011年4月30日付の讀賣新聞朝刊で、海江田万里 経済産業大臣が「モニタリングのあり方も含め、統一的に原子力災害から国民を守る組織があってもいい。」と述べている。

地理学・地球科学では大規模な実験が難しい。そのためコンピュータシミュレーションが発達しているとも言え、この傾向は特に気象学で顕著である。時計は元に戻せないため、起こってしまった原発事故は粛々と受け入れなければならない。その意味で、(不謹慎かもしれないが)現在我々は壮大な実験場にいるとも言える。

私たち科学者は政策の決定はできない、しかし政策決定者に対する提言はできる。現状を監視・分析し、「なぜ、そうなるのか」を洞察し、自分にできることをアピールし続けることによって、微力ながら日本の再生に貢献したいと思う。