研究助成事業東日本大震災への取り組み 
提言(2011年7月1日)

震災以後の「日本の整合性の取れた発展」について

吉田 敏

首都大学東京 産業技術大学院大学 産業技術研究科
教授 吉田 敏
[助成採択年度] 2007年度
[助成種類] 研究助成

コロンビア大学大学院建築学部修士課程修了(Master of Science)
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)

専門分野: 設計情報分析、工学的価値の探求、建築設計・生産システムの構築、人口物創生プロセスの精査

今回の東日本大震災からの復興を考えたとき、まず懸念されるのが『目的』の錯綜である。直面する課題を総括的に整理することなく、一時凌ぎのような対処を繰り返していった場合、この『目的』が整理されないまま行為だけが進んでいくことになる。

筋の通った『目的』をつくるには、復興の基本となる「被災地域を中心に国内全体において、明日以降未来に向かって、最も豊かで安心できる生活環境を整える」ことを最も上位に掲げながら、多くの『目的』の合理的かつ矛盾の少ないストラクチャーを作り上げることであると考えられる。そして、このような『目的』のストラクチャーに沿って出来るだけ早く行動プロセスを確定させる必要があると考えられる。

ただし、環境は常に変化していく。自然環境、社会環境、経済環境、政治環境、技術発展環境、そして実行してみなければわからなかった事実(がれきを撤去しはじめて理解できること等)を含み、これからの環境の変化は誰にも明確な予想は出来ない。これは、未来には不確定な要素が無数に存在するからである。
そのため、当初の『目的』を中心に据え、常に必要な情報と知識を集め、それらを評価し、必要な変更に柔軟に対応する必要があり、そして、これらの『方向性』を持続的に進めていく組織体制が必要である。

現場では、住宅地のがれきの撤去では位牌や写真を一つずつ拾いながら進められている。日本人は、『方向性』が決まれば、現場では極めて高いパーフォマンスで作業を進めていく特性を持っているのではないだろうか。

どのように『目的』を創り、どのように正しい『方向性』を定め、どのように推し進めていくことができるか。
今こそ、「何をやるか」よりも「どのようにやるか」という指針について、産学官を超えた最高レベルの知見の連携が必要ではないであろうか。