研究助成事業東日本大震災への取り組み 
提言(2011年9月2日)

「公共事業の評価手法の
抜本的見直しと
国民理解の浸透を」

坂本 淳

岐阜工業高等専門学校 環境都市工学科
助教授 坂本 淳
[助成採択年度] 2009年度
[助成種類] 奨励研究

[学位] 博士(工学)
[専門] 都市計画,交通計画
[2006年4月] 株式会社建設技術研究所
[2009年3月] 名古屋工業大学大学院 博士後期課程 修了
[現在] 岐阜工業高等専門学校 環境都市工学科 助教

東日本大震災において道路が果たした役割は、釜石山田道路にみる緊急輸送道路、生活道路としての迂回路、仙台東部道路にみる瓦礫の流入を抑制する防潮堤など多岐にわたるものでした。したがって、道路事業の必要性について考える際には、平時に道路が果たす役割はもちろんのこと、災害発生時をはじめとした有事に果たす役割も十分に考慮されるべきものであるといえます。しかしながら、釜石山田道路の再評価の結果、費用便益比が1.01であることからわかるように、現在の道路事業評価で用いられている3便益は、平時における効率性に重点が置かれており、有事における減災等を十分に評価できているとはいえない状況です。

さて、わが国の公共事業に対する向かい風は弱まる気配はなく、建設投資額はピーク時の6割程度まで削減されてしまいました。さらに、公共事業は無駄の象徴として取り上げられることが多くなり、例えば極めて交通量が少ない道路は,熊や猪しか走らない道路であると揶揄されることもしばしばあります。

以上の点を踏まえ、わが国の発展に必要な施策のひとつは、災害に強い道路ネットワークの形成であると考えます。そのためには、現在の事業評価手法の抜本的な見直しがなされなければなりません。費用便益比>1以上が事業評価の前提ではなく、貨幣換算が難しい前述した有事の便益も踏まえた総合的な判断がなされることも、特に交通量が少ない地方部では必要です。今回の震災経験が事業評価の高度化を後押しするものと期待します。また、震災後間もない現時点では、災害時の道路の必要性について理解している者も、時間とともに記憶が風化されてしまう懸念があります。ついては、前述した道路の有事の機能について国民に広く継続的に発信することが必要不可欠であると考えます。